この春の県議選挙。私にとっては3度目の選挙だったが、とても苦しい選挙だった。終わってふりかえれば、その苦しかった日々が懐かしく思い出される。まだ、終わってほんの3ヶ月なのに、もっとずっと前だったような気がする。 この選挙活動の中で、とても深く印象に残っているのが、菜の花の匂いだ。 選挙の告示があって、10日間の選挙戦の後半に入ってからだった。朝8時から夜8時まで宣伝カーに乗って、市内を走り、1日20箇所ほどの街頭演説をした。気持ちは張っていたものの、少しずつ疲れがたまってきた頃だった。 その日は、地元吉野町を回っていた。私が、その場所での演説を終わって宣伝カーに戻ると、宣伝カーの運転手のHさんが、菜の花を渡してくれた。黄色い花がとてもきれいな菜の花だった。鼻の先に持っていって匂いをかいで驚いた。鼻からその菜の花の匂いが胸に入っていくと、スーっと気持ちが楽になっていくのを感じた。おだやかな気持ち、懐かしい気持ち、静かな気持ち。不思議な感覚だった。深く息を吸いながら匂いをかいで、息を吐いたとたんに、その感覚が消えてしまう。「マッチ売りの少女」がマッチをすって、その光の向こうに暖かな食卓が浮かび上がって、マッチの光が消えるとすっとそれが消えてしまう。同じだった。匂いを吸っている間は、胸に豊かな穏やかな気持ちが広がり、吸うのをやめると、即、現実に戻る。私は宣伝カーの中で、花がしおれるまで何度も何度も菜の花の匂いをかいだ。 選挙戦の最終日、50箇所を越える演説をこなし、それはそれはハードだった。持てる力を振り絞りながら、演説をした。私は、無性にあの「菜の花」の匂いをかぎたくなった。菜の花の匂いで疲れを癒したかった。私は、運転手さんに「菜の花がほしい。」と頼んだ。でも、最終日は、市街地がほとんど。運転手さんは、私が演説している間に、必死に菜の花を探してくれたが、街の真ん中で、簡単に菜の花は見つからない。小学校の校門前で演説をしているときに、校庭から、白い菜の花を摘んできてくれたが、その匂いは私のほしかった匂いではなかった。 その後、後半戦の地方選挙で、県内のあちこちを宣伝カーでまわり、菜の花を見つけては匂いをかいだ。しかし、あの菜の花の匂いとは違っていた。 苦しい選挙戦の真っ只中でのあの菜の花。一期一会の出会いだったのだろうか。来年、同じ季節がやってきたら、あの菜の花を探してみよう。もう一度、あの匂いを胸いっぱいに吸い込みたい。 |